構造デザインとは
建築は所有者にとっての財産であるとともに、社会資本でもあります。
建築には機能性・美しさが必要で、さらに安全で耐久性が高いことが求められます。大学の建築学の教育では「強・用・美」というキーワードがしばしば用いられているかと思います。これに加え、実務においては経済性も重要となります。
上記の条件を満たす建築の骨格を考えていくことを、構造設計といいます。
この職種がいつ確立されたか明言することは難しいのですが、20世紀初頭には "structural engineer" なる職能が明確に出現し始めていました。
エドゥアルド・トロハ、ピエール・ルイジ・ネルヴィ、フェリックス・キャンデラ、オヴ・アラップ、フライ・オットー、バックミンスター・フラーなどが代表的な例です。
日本では、20世紀初めに佐野利器らが耐震工学の礎を築いた後、横山不学が構造を専門とする事務所(構造設計事務所)を立ち上げたことで、構造家という職能が確立されていったといえます。
しばらく経った1980年頃には、構造表現主義(ハイテク建築とも称される)という建築様式が出現しました。
香港上海銀行・香港本店ビル(ノーマン・フォスター)やポンピドゥー・センター(レンゾ・ピアノ、リチャード・ロジャース)、ロイズ保険ビル(リチャード・ロジャース)がその代表例とされます。
科学技術が目に見えて進歩する社会を背景として、構造躯体や下地材料、設備配管などを装飾的に露出させる様式でした。
このような構造躯体を表現の一部として用いる手法は、現代の構造設計においてもしばしば採用されます。
一方で、建築家のジャン・ヌーヴェルは書籍(建築家たちの20代、東京大学安藤忠雄研究室編集、TOTO出版、1999)の中で以下のように語っています。
「二十世紀のポエジーというのは、やはり技術にあるのではないかと思います。エンジニアたちが、その技術を劇的に演出して見せることに喜びを見出していたのは事実でしょう。」
「おそらく今世紀末から来世紀にかけて、どのようにものが出来上がってきたかという過程を、視覚的には認識させないような建築家あるいはエンジニアが最先端をいくと言えると思います。」
その予言の通り、「どうやって支えているのか分からない」「どこが構造体なのか分からない」といった建築計画は、現代建築における主要なテーマの一つとなっているように思います。
それは単に柱や梁が隠れているという話ではなく、例えば従来であれば非構造として見過ごされていた材料・部材を構造躯体と見なす、空間に極限まで寄り添う繊細な構造計画に挑戦するなどといった、技術的進歩によるものです。
その舞台裏に、解析技術の発展、多数の実験、建築家と構造家のコラボレーションといった多数の努力があることは言うまでもないかと思います。