IN-STRUCTのしごと

IN-STRUCTのしごと

こんにちは。 IN-STRUCT広報担当スタッフです。
今回は、建築の構造設計における視点や設計の裏側について、弊社代表の東郷に質問してみました。

弊社代表の東郷

どなたにも読みやすい内容になっていますので、ぜひ最後までご覧ください。

常にその建築に住む、使う人の目線を忘れないこと

__まずはじめに、設計する上で大切にしていることは何ですか?

東郷:その建物で過ごす人々の目線です。設計している人はモデリングできるので俯瞰で見てしまいがちですが、主観的な目線は忘れたくないと思っています。
たとえば柱。50mm角くらいであれば手で掴むことができますし、600mm角くらいになればもたれかかることができるくらいのサイズ感です。もっと大ききれば壁のようにも見えるかもしれません。このように主観で見たときに柱や梁といった構造体がどう見えるのかという目線は忘れずにお仕事をしています。

京都駅:太い柱の周りに人が集まっている

__俯瞰しすぎずに、使う人の目線になって設計することを意識されているんですね。
実際、竣工した建築によく足を運んでいるイメージです。

東郷:はい。建物が完成して見に行った時に確認しています。この柱もっと薄くてもよかったな、太くてよかったな、というフィードバックを現物(実際の建築)からもらっています。

schwa2 構造設計
「schwa2」 建築家:OSTR 撮影:yosuke ohtake

東郷:特殊なことをしているわけではないんです。あくまで既往の構造設計を現代の価値観に合わせて日々アップデートしているという感じです。手計算やスケッチなど、ものづくりの基本は常に忘れないようにしています。そこは今後もずっと残っていくところだろうなと思っています。

__あくまで構造設計としての基本を大切にされているんですね。

柱を落とさないのは誰のためなのか

__聞いていると、事務所の軸ともいえる「人間・構造・建築の調和」が体現された事例が気になります。特に印象に残っているプロジェクトはありますか?

東郷:まだIN-STRUCTという社名になる前の話ですが、箕面森町の家がよくできた事例だと思います。

__箕面森町の家は、光と風がよく通る開放的な家ですよね。

箕面森町の家 構造設計
「箕面森町の家」 建築家:knooot

東郷:はい。元々はリビングで山型の梁をかけて、棟梁を消す案でした。当初は柱を落とさずに、いかにスパンを飛ばすかを考えていました。構造的に難しい架構をやろうとしていて。

箕面森町の家 構造設計
「箕面森町の家」

東郷:ですが、コストや施工の観点からも議論している中で、この部屋の使い方を考えると柱が落ちていたとしても住む人にとっては快適なのかも?という話が出てきて。そうした議論の末に柱を落とし、小さな棟梁を通すことで、垂木だけを際立たせた軽やかな屋根を作るという方針に切り替えました。結果としてはとても良い建築になったと思っています。

__住む人のニーズを深く考えることが、良い建築につながるということですね。

箕面森町の家 構造設計
「箕面森町の家」
箕面森町の家 構造設計
施工中の箕面森町の家①
箕面森町の家 構造設計
施工中の箕面森町の家②

東郷:そうですね。その際、建築の構想、軸の取り方など本質に迫った議論がしたいので、そうなるとプロジェクトの初期段階から構造の議論が入った方がいいと思います。

__初期段階から参入することは、構造の業界では珍しいものなのでしょうか?

東郷:世間一般では、設計がある程度進んでから構造の担当者が参加する方が多いようです。初期段階から必ず参加しますという書き方をしているのは珍しいと思います。

東郷:初めてお仕事する場合には、その建築家の作風などについて会話していく必要があります。例えば、壁や床といったフラットな面を中心に構成する人もいれば、柱梁のような線材を押し出す人もいます。もっと抽象的なレベルだと、都市との向き合い方、宗教観、倫理観など議論すべきことがたくさんあります。このあたりはプロジェクトごとにこちらも把握しておきたいです。 お互いに納得した上で構造を考える方が、理にかなっていると思いますので。
ただ、IN-STRUCTはまだまだ若い会社なので、これからどんどん建築家の方とも交流していきたいと考えています。

鶴見の家 構造設計
「鶴見の家」 建築家:藤原・室建築設計事務所 撮影:平桂弥(studioREM)

__初期段階から参入することで、建築家との深いコミュニケーションが生まれ、より本質的な建築構造の提案が可能になるということですね。でも、なかなか案が定まらないこともありそうです。

東郷:そうですね。最終決定権は建築家の方が持っていることが多いです。 ですが、仮にA案B案C案があった時、「構造的にはA案が一番いいと思います」といったように、こちらからの意見を常に伝えるようにしています。

杜の舞台(一宮の路上建築群) 構造設計
「杜の舞台」 建築家:ambientdesigns 撮影:ToLoLo studio

__この参入の仕方に対して依頼者からはどのように思われているのか気になります。

東郷:建築家の方からは、「何も決まっていない段階で相談していいんですか?」と嬉しそうに言っていただけることが多いです。一方で、「この段階では構造家に見せられない」と遠慮する方もいらっしゃいます。
初期段階から関わるという姿勢が広まっているのか、色々な相談をしていただけることが増え、認知が広がっていると実感しています。

__喜ばれることが多いんですね。もっと認知を拡大できるように頑張ります!

IN-STRUCTらしさ

__また、一般的に使われる「構造設計者」や「構造家」ではなく「構造デザイナー」という呼び方を導入していますよね。そこにはどんな意図があるのでしょうか。

東郷:あえて構造デザイナーと呼ぶ理由としては、コンピューターによる高度な計算がどんどん実現する時代に、私たちは人間らしい手仕事を大切にしたいと考えているからです。計算だけで完結しない職能の在り方にチャレンジしていきたいと思っています。

五島つばき蒸留所 構造設計
「五島つばき蒸留所」 建築家:WANKARASHIN 撮影:yosuke ohtake
五島つばき蒸留所の模型

__まだ若い会社にも関わらず、教育についても力を入れている事務所という印象があります。

東郷:インストラクトという社名の通り、従来の事務所に比べて教育に力を入れていて、オープンで顔が見えやすい事務所なのかなとは思っています。 まだ始まったばかりで難しい点もありますが、教育面では社員が一人ずつ増えてきて少しずつ組織として出来上がってきていることや、立ち上げたばかりの事務所にしては求職者が多いこともあり、ありがたい限りです。

__携わり始めた頃と比べて、人が増えていってどんどん組織らしく成長しているのは私も感じています!

これからに向けた挑戦

茶山・京都芸術大学駅 改良工事 構造設計
「茶山・京都芸術大学駅 改良工事」

__最後に、今後挑戦したいことについて教えてください。

東郷:現在は住宅などの小さめのプロジェクトが多いですが、今後は中大規模の建築の割合も増やしていきたいと考えています。その上で、初期段階から関わるという姿勢を今後規模が大きくなっても貫くことができるのかが今後挑戦していくべき課題だと思っています。 また、研究などを交えた新しい架構形式の提案などにもチャレンジしていきたいです。構造デザインの楽しさを世に広めるためコラムを書いたり展示会を開催したり、さまざまな企画も考えています。

__ありがとうございます。これからも頑張っていきましょう!

最後までご覧いただきありがとうございました。